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音声活用ブログ

音声からプレゼンテーションをする人の聞き手に対する説得度合の研究を紹介します

2021.08.08

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19 音声感情分析(解析)で明らかになったプレゼンの極意

 今年2月に米国の消費者研究の学術雑誌に「説得における音声トーンの役割」と言う論文が掲載されました。ESジャパンの提携先であるネメシスコ社の音声感情分析(解析)ソフトを用いて、プレゼンテーションをする人の聞き手に対する説得度合を研究したものです。この研究によるとプレゼンターの声に含まれる「集中」の感情値が高いと説得度合が高く、「ストレス」や「過度に感情的」の感情値が高いと説得度合が低くなるそうです。また、プレゼンターが低い声のピッチで話したときの方が高いピッチで話したときよりも説得度合が高まるそうです。このブログではこの論文の内容を紹介します。

※この論文の著者とネメシスコ社とのインタビュー記事がNemesysco社のホームページに記載されており、またその翻訳したものは当社のブログ(2021.5.21 Nemesysco社のHPより)に記載してあります。

 

 オックスフォード大学出版局が発行している”Journal of Consumer Research”(消費者研究誌)の2021年2月号に”Audio Mining: The role of Vocal Tone in Persuasion”(オーディオマイニング:説得における音声トーンの役割)と言う論文が掲載されました。(1) オンラインプレゼン時の音声トーンがどのように聞き手の意思決定に影響を与えるかを実証研究したもので米国・カナダ・香港の大学の先生5人による共著です。

研究の方法

 この研究は、スタートアップの個人やアーティストがマイクロファンディングを使ってお資金を集めることを支援するサイト「Kickstarter」(https://www.kickstarter.com/)を使って行われたものです。このサイトには様々なプロジェクトが登録されており、動画で視聴者にプロジェクトの説明をして資金の提供を求めるものです。プレゼンの巧拙が獲得資金額に直結するのでプレゼンターの話し方は非常に重要となりますが、このkickstarterサイトに登場するプレゼンターのほとんどはその専門的な訓練を受けていない方々です。

 この論文の著者たちは、kickstarterサイトから6,755個の音楽関連のプロジェクトと3,966個のテクノロジー関連のプロジェクトを選び、それらのプロジェクトが目標とした出資額が実際に集まった割合とプレゼンターの声に含まれる感情要素との相関関数のデータを取り、著者らが立てた次の仮説が成り立っているかの検証をしました。

仮説1 声の感情要素に「集中」の兆候が多く示されている場合は成功確率が高い。

仮説2 声の感情要素に「ストレス」の兆候が多く示されているときは成功確率が低い。

仮説3 声の感情要素に「過度に感情的」の兆候が多く示されているときは成功確率が低い。

 論文ではこの3つの仮説以外にも、プレゼン動画の刺激度や明暗との関係に関する仮説についても述べられていますが、今回はこの3つの検証結果について説明します。

研究結果

音楽プロジェクトに関しての実験結果を図1~図3に示します。

 図1はプレゼンターの音声に含まれる感情要素のうちfocus(集中)の度合いと資金を獲得した確率との関係を示すグラフです。focus(集中)はネメシスコ社の音声感情分析ソフトQA7から出力される”Concentration”の感情指標を用いています。このソフトはESジャパン社が提供するソフトESAS Core Serviceに相当します。このグラフから、プレゼンターの集中の感情が高いと資金獲得確率が高くなることがわかります。すなわち仮説1が検証されたことになります。

 図2はプレゼンターの音声に含まれる感情要素のうちStress(ストレス)の度合いと資金を獲得した確率との関係を示すグラフです。ストレスはネメシスコ社の音声感情分析ソフトQA7から出力される”Stress”の感情指標を用いています。このグラフから、プレゼンターのストレスの感情が高いと資金獲得確率が低くなることがわかります。すなわち仮説2が検証されたことになります。

 図3はプレゼンターの音声に含まれる感情要素のうち過度に感情的(Extreme Emotion)の度合いと資金を獲得した確率との関係を示すグラフです。この「過度に感情的」はネメシスコ社の音声感情分析ソフトQA7から出力される”Extreme Emotion”の感情指標を用いています。このグラフから、プレゼンターのストレスの感情が高いと資金獲得確率が低くなることがわかります。すなわち仮説3が検証されたことになります。

 この論文の著者らは同様の実験をテクノロジー分野のプロジェクトに対しても行いました。この結果、仮説1(集中)と仮説3(過度に感情的)に関しては実証できましたが仮説2(ストレス)は実証できなかったと述べています。その理由としてテクノロジーに関するプロジェクト自体が比較的複雑かつ技術的なので、kickstarterのその分野でプレゼンテーションをする平均的な起業家がプロジェクトの特長を伝える為にはどうしてもストレスがかかり、ストレスの無いプレゼンターのデータが不十分であるからだと説明しています。(筆者の考えですが、テクノロジー分野でストレスを感じさせないプレゼンをすると効果的だと言うこともできるでしょう。)

 次にこの論文では何故このような結果になるのかについて考察しています。ここでperceived persuader competenceと言う概念が登場します。直訳では知覚的説得力となりますが、これは 聞き手が話者に対して「この人の話は説得力がある」と感じる程度のことを指します。これが高いと聞き手が出資しても良いかなと思うようになります。この論文の主張は、perceived persuader competenceは「集中」の感情を聞き手に感じさせるとプラスに作用し、「ストレス」や「過度に感情的」の感情を感じさせるとマイナスに作用すると言うものです。つまり、
  「音声感情要素」→「この人の話は説得力がある」→「投資意思決定」
というメカニズムになっているとの事です。

 いずれにしても、プレゼンターがその内容を視聴者に上手に伝えて資金の提供を得るには、プレゼンターの声のトーンが重要で、特に「集中」感情要素が声に含まれていることが重要なことが実証されました。

では、聞き手に話者の「集中」感情を感じさせるためにはどのようにしたら良いのでしょうか?これがわかれば効果的なプレゼンを行う為のトレーニングが可能になります。この論文にはその参考になる興味深いデータが載っています。図4は音声のピッチ(高低)を変えるオープンソースのソフトウエアOnline Tone generator(2)を用いて女性プレゼンターの声を元音声から約18%周波数を高くした音声、約18%低くした音声の三種類を用意して313人のボランティアの視聴者(被験者)に聴かせてどの程度迄なら出資するかの金額を調査したところ、図4に示すように低い声の方が高額の資金提供をすることが解りました。

 

 この実験は女性のプレゼンターが行ったもので男性プレゼンターの場合の実証実験はしていないので、今後さらに実証実験を行う必要があると思いますが、低い声の方が聞き手に話者の集中感情を感じさせるようです。なるべく落ち着いた声で話すようにするとプレゼンの成功率が高まります。

 

プレゼンの極意(まとめ)

この一連の実験から得られるデータを基に筆者が考えるプレゼンの極意は次の3点です。

  • テーマに集中している話し方をする。 → 低い落ち着いた声を出すのが良い。
  • ストレスを感じさせない話し方をする。 → 落ち着いて声を出すことを心がける。
  • 過度に感情的にならずに話す。 → 余りにも感情的な話し方だと「何か胡散臭いな」と思われてしまう。

当たり前の事なのですが、「集中力アップ」、「ストレスダウン」、「過度な感情禁物」を意識してプレゼンテーションができるようになれば、相当の説得力があると思います。

最後に

 この論文では、プレゼンターの感情要素として、集中、ストレス、過度に感情的の3つに注目しましたが、他の感情要素の変化も測定してみたいところです。Blog読者の方で自社や自団体で調査したいとご興味を持った方がいましたら、是非当社にご相談下さい。

 

 (1) Xin (Shane) Wang, Shijie Lu, X I Li, Mansur Khamitov, Neil Bendle Journal of Consumer Research, ucab012, https://doi.org/10.1093/jcr/ucab012 Published: 23 February 2021

 (2) https://onlinetonegenerator.com/pitch-shfter.html

以上

 


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