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音声活用ブログ

コールセンター運営におけオペレーターの離職抑止について

2021.08.18

コールセンターテクノロジー

20 感情分析(解析)によるコールセンターオペレーターの離職防止

コールセンター運営において、オペレーターの離職は大きな課題になっています。当社の親会社であるCENTRIC株式会社は長年コールセンターを運営しており、業務の一環としてオペレーターの感情変化の測定値と離職者との間にある相関関係を調査しています。このブログでは、その調査結果の一部をご紹介します。

オペレーターの仕事は感情労働

 仕事の分類方法として従来から「肉体労働」と「頭脳労働」と言う概念がありました。その分類の境界は必ずしも明確ではありませんが、前者は肉体運動により報酬を得る仕事、後者は知識や思考力を使って報酬を得る仕事です。この分類に対して、米国の社会学者であるアーリー・ホックシールド博士が25年くらい前に新たに「感情労働」と言う概念を提唱しました。これは「労働者が自分の感情をコントロールすることによって報酬を得る仕事」です。営業職、看護師、介護士、飲食店員、教師、医師などいわゆる接遇を伴う職業がこれに該当するでしょう。特にコールセンターのオペレーターは自分の感情を押し殺してお客様と電話で応対することを要求され、さらに上司・管理者にも気を遣わなければならない職業ですから典型的な感情労働と言えるでしょう。

オペレーターの離職原因

 離職の原因は人それぞれで、100人の離職者がいれば100通りの原因があるでしょう。給料が安いと感じる人、仕事が自分の性格に合わないと思う人、職場の雰囲気になじめないと感じる人、この会社では昇進が出来ないと思って他社や他業種に活路を求める人、家庭の事情が変わった人、他の会社から条件の良いオファーを受けた人、他に目的がありその資金を稼ぐ為に一時的な就業であった人など様々です。これらの原因で離職する人は、コーチング制度、自己申告制度、人事面接制度などで適切に人事管理を行っていればある程度離職が予測できるように思われます。

問題は、上記のような予測可能な離職原因では無く、周囲から見ると突然の離職となる場合です。特に優秀なオペレーターに突然退職の意向を伝えられると、コールセンターの運営管理者は本当に困ってしまいます。優秀なオペレーターの特性は、少し疲れ気味だなと思って上長が面接してヒアリングすると、ほぼ全員が「大丈夫、頑張ります。ご心配ありがとうございます。」等の反応を示します。その為上長が少し様子見をしていると、ある日「申し訳ありません、辞めさせて下さい。」と突然宣言をします。こうなってしまうと、どの様に説得してもほぼ離職の意思を翻すことはできません。そして、優秀なオペレーターはコールセンターの大きな戦力であり、穴が空いた部分の後継者を養成することは並大抵のことではありません。単に後継者育成費用と時間の問題ではありません。場合によってはそのコールセンターの運営そのものが成り立たなくなる場合さえあります。ですから何としてもこのような事態を避けねばなりません。

離職可能性者の抽出

 当社の親会社であるCENTRIC株式会社は、自社コールセンターの運営にあたり、このような事態を避ける為にESジャパンの音声感情解析システムを用いています。CENTRIC社とESジャパン社ではまず次の仮説を立てました。

仮説
オペレーターが自分の心の感情と異なって相手に合わせて作られた感情で仕事をしていると思い込むと、辛いと感じる頻度が高くなり、一定期間で辛いと感じる指標(P値)が一定値を超えると離職を考え始める。

 

つまり、つらいと感じる指標(これをP値(Painfulness)と表記します)の累積値が図1に示す閾値を超えると、離職を決意する。
従ってP値を何らかの形で数値化できれば離職懸念者を早期に推定できますのでP値の数値化に取り組みました。

 P値はどの感情要素により決まるのかを特定する為に既離職者500件、在籍者500件の音声会話データ を感情解析して感情値データを収集し、さらにビッグデータ分析によりこのデータの特性を抽出しました。そうすると、下記の特性が見えてきました。

図2に示すように、まずオペレーターの音声を約2秒の有音期間(音声セグメント言います)で区切り並べます。例えば1分(60秒)の有音会話ならば第1セグメントから第30セグメントまでの30セグメントがあります。第 kセグメントに対してESジャパンが提供する感情分析ソフト『ESAS』を用いて検出される感情要素のうち、「想像Imagination」「思考Thinking」「ストレスStress」「エネルギーEnergy」の感情数値をIkTkSkEkとしたとき、これらが全てある特定範囲(図2では例としてIkTkSkEkはそれぞれ5~30の間、Ekは1~5の間で示しています。)の中に入っている時に1とカウントし、1つでもこの特定範囲に入っていない時には0とカウントするような変数pk を定義します。そしてオペレーターの会話がNセグメントから成っているとき、pkを1からNまで加えた値をNで割った値をP値とします。式で書くと

となります。CENTRIC社とESジャパン社の共同チームが発見したことはこのP値が特定値Pmよりも大きいと仕事がつらいと感じているということです。すなわち、オペレーターの会話を感情分析してP>Pmとなっているオペレーターは離職懸念度が高いと言うことです。さらにP値の時系列的な変化を調べて、これが増加傾向にあるときは非常に離職懸念が高いと言うことがわかりました。すなわち上記の仮説が正しいと実証されたことになります。

 表1は実際に感情解析を行ったデータとなります。過去半年以内に離職したオペレーター5人と、現在もCENTRIC社で働いているオペレーター5人の同時期の音声会話を分析した結果です。ここでP>18%となっているオペレーター5人を見ますと5人中4人が離職しています。この事実を利用して、P値が時系列的に上昇傾向にある人を見つければ、離職可能性のある人を事前に見つけ出すことができます。

離職懸念者への対応

 離職懸念者を見つける事が最終目的はではありません。目的は懸念者をケアして離職しないようにすることです。これができなければ手間暇かけて離職懸念者を見つけ出しても全く意味がありません。他社のシステムでは検出をしてもその後のケアをどの様に行うのかがユーザー任せとなり「離職予備軍を発見しました。ここからはユーザー様にてフォローを行って下さい。」となる場合が少なからずあります。

 ESAS感情解析システムは、この離職回避の為のフォロー段階でも力を発揮します。オペレーターにはお客様との対応のタイプがあるので、まずこのタイプを特定します。そしてタイプ別にフォローアップの方法を変えていきます。

 例えば、ESAS感情解析システムではEmo/Cog Ratio(感情/論理の比率)と言うデータを取ることができます。これは話者が感情を込めて話しているか論理的に話しているかの割合を示す指標です。この値が大きいオペレーターは「感情タイプ」、小さいオペレーターは「論理タイプ」と分類します。前者はお客様との対応で「共感しよう」と言う気持ちが強い人、後者はお客様の課題を「解決しよう」と言う気持ちが強い人です。業務内容とタイプを調べるとアップセル業務の成績上位者は圧倒的に「感情タイプ」、解約阻止業務の成績上位者は圧倒的に「論理タイプ」が多いことが解りました。CENTRIC社では離職懸念者を見つけた際、まずその人の仕事内容とタイプが合っているのかを調査します。もし、論理タイプにも拘わらずアップセル業務を行っているならば、タイプ不一致によりP値の高まりを招いている可能性が高いので、業務配置の変更を行います。これによりP値を下げ、離職を思いとどまってもらうようにします。

上記はタイプ不一致を解消することによりフォローアップした例でしたが、CENTRIC社では離職懸念者に対するフォローアップの基本はオペレーターの感情推移を本人と上長とで共有することです。それにより自身も気づいていない自分のキャラクターを認識してもらい、自分がどこで(どの感情要素で)無理をしていたのかを気づいてもらうようにしています。これだけでも随分と離職抑止効果があるという事です。また、お客様とオペレーターの会話での感情推移を一緒に見て、「お客様が怒っている」と思い込んでいたことが実は「お客様は困っている」ということに気づき、この気づきによりオペレーターのストレスが下がり離職を思いとどまった例も報告されています。

まとめと留意点

 上述したCENTRIC社のコールセンターの離職防止策手順を整理すると次のようになります。

 ① P値(つらいと感じる指標)の計算方法(アルゴリズム)を感情解析システムの出力データを用い、ビッグデータ解析によりはじき出します。

 ② P値がある一定値よりも高いオペレーターを離職懸念者として抽出します。

 ③ 離職懸念者の感情タイプを本人と上長で共有し、オペレーターの仕事内容と感情タイプが合っているかどうかを検証し、この不一致によりP値が大きくなっていると想定された場合には仕事内容と感情タイプが一致するように仕事内容を変更します。

 ④ オペレーターの感情推移を本人と上長とで共有し、何がP値の高まりを招いているのかを気づいてもらう。また、この気づきを促進する研修を実施します。

ただし上記①に関しては注意が必要です。P値を算出するアルゴリズムと用いる感情パラメーターはコールセンター毎に異なるからです。これには少しノウハウが必要となります。

 

 ESジャパンでは、感情解析システムを用いて離職防止に取り組もうとお考えの企業の皆様へ、このノウハウ開示を含めコンサルを行っております。ご興味頂けましたら、ESジャパンのホームページからご遠慮なくお問合せ下さい。

 

以上

WRITER

都筑 一雄

都筑 一雄

ESジャパン株式会社
エグゼクティブアドバイザー

慶応義塾大学及び東北大学大学院で物理学専攻。修士課程修了後、日本電気(NEC)に36年間勤務。製品開発、システム構築、事業部運営、欧州合弁会社立上げ等、役割は変化したが一貫して音声関連の通信事業に関与。NEC退職後は滋賀県彦根市役所の行政情報化担当特別顧問を5年間務め、退任後、ESジャパン株式会社の設立発起人として創業に関与し現在に至る。