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9 感情とはどういうものか(5つの質問)|音声活用ブログ

2021.01.06

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9 感情とはどういうものか(5つの質問)

  感情とはどういうものなのかと言う5つの質問

     ①どこから来るのか

     ②どのように感情が表れるのか

     ③どんな役に立つのか

     ④どの人でも同じ感情を持つのか

     ⑤何の感情も感じないことは可能か?

     に答える形で説明します。

感情は私たちの日常生活に切っても切れない関係があります。では感情とは何かと質問されると、多くの人は上手く答えられないのでは無いでしょうか?

筆者が見つけた「人文科学(Sciences Humaines)」というフランスの雑誌N0.320号の中に「感情に関する5つの質問」という記事があり比較的分かり易かったので、それを参考に『感情とは何か』を紹介します。

―この記事の内容は筆者が勝手に省略したり付け加えたりした部分もあります。必ずしも記事の内容を正確に紹介したもので無い事をご承知おき下さい―

 

 

(1)感情はどこから来るのか?

 このテーマは昔から議論されてきており、1884年に米国の心理学者で哲学者でもあるウィリアム・ジェームズは知覚が先に起こりそれにより感情が誘発されると言う説を唱えました。彼によると例えば怖い事を経験した時にはまず肌に鳥肌が立ちその後に「怖い」という感情が発生すると主張しました。しかし1927年に米国の生理学者ウオールター・カノンとフィリップ・バードは全く逆の説を唱えました。彼らの理論によると感情が先行しそれから身体反応が現れる、あるいは感情と身体反応が同時に起こることになります。

 現在では脳科学により感情がどこから来るのかが分かって来ています。感情は脳の最深部で生まれます。感情は脳幹から始まり、辺縁系まで広がって行きます。 この部位には、特に恐怖に関連する扁桃体、嫌悪感の反応に大きく関与していると思われる島皮質、人が喜びを感じたときに活性化する中脳水道周囲灰白質(ちゅうのうすいどうしゅういかいはくしつ)、感情的な出来事の記憶が保存されている海馬があります。

 感情には2つのタイプがあります。1つは自律的で無意識的な生の感情、もう1つは制御可能で意識的な感情です。 「生の感情」とは、特定の状況で経験する主観的な感情を指します。ホラー映画を見ると恐怖を感じますし、不公正なことに対しては怒りが、贈り物をもらうと喜びの感情が発生します。一方、「意識的な感情」とは生の感情の解釈として生み出されます。

意識的に感情を理解し制御する能力は人間に固有のもので、 大脳皮質レベルでの感情認識です。大脳皮質の中で眼窩前頭皮質と前帯状皮質は感情を理解しそれに対する行動を準備する上で中心的な役割を果たしています。

(2)どのように感情が表れるのか?

 感情の発現は①表現②動機③身体反応④感じ方(心の内)⑤認知評価の5つの段階で説明できます。最初の3つは、その人が他の人に見せるものです。

①表現

感情は顔で読めますし、声を聞くことでわかり、姿勢や態勢で観察出来ます。恐怖は叫び声を出し、喜びは笑顔になり、悲しみは体を丸めます。ムンクの有名な絵画「叫び」を見れば多くの人は恐怖の感情を表していると思うでしょう。

②動機

動機は行動を引き起こします:恐れは時として回避を引き起こし、時には対立(戦うか逃げるか)を引き起こします、愛は親密さを追い求め、恥は孤独を導きます。

③身体反応

身体反応には内臓的なものと身体運動的なものがあります。激しい恐怖は心臓が飛び出すようになり、愛は胸のどきどきを引き起こし、嫌悪は嘔吐を、ストレスは発汗を促します。

④感じ方(心のうち)と⑤認知評価は外部からはほとんどわかりません。

④感じ方(心のうち)

感情により引き起こされる感じ方(心の内)は、ある特定状態を意識した表現です。それは「群衆が私を圧迫している」と言うような単純な状況的感情では無く「私は不安を感じる」と言った拡散的かつ持続的な感じ方です。

⑤認知評価

そして最終的に大脳皮質が全体の状況を考慮に入れ、感情から派生する最終的な感覚を与えることになります。例えば同僚が私を挑発したのでイライラしましたが、彼が冗談を言っていることに気付いてリラックスして彼と一緒に笑った…の様な経験は誰にでもあると思います。大脳皮質では総合的に状況と感情を認知して最終的な感覚を導きます。

(3)感情はどんな役に立っているのか?

 ダーウィンは感情の適応機能に関する説を提示しました。彼によれば、恐れは我々に危険のシグナルを出して逃げることを備えさせ、怒りは我々のエネルギーを高めて敵から身を守るためにより強くなるようにさせます。

神経心理学者のアントニオ・ダマシオの研究で脳に損傷があり感情意識を奪われた人は論理的な意思決定を行うことが出来ない事が明らかになり、感情は、意志決定を導くものであるいう説を提唱しました。

感情はしばしば「悪い予感がする」と言うような論理的には上手く説明できない要素を導きます。就職活動で完璧なプレゼンを行ったとしても、状況が上手く運ばない時に不安を感じるのは感情の役割です。

また、感情は意志決定以外にも他の意識機能、特に「注意力」と「記憶力」に役立っています。

我々は恐怖の表現(叫び、青ざめた顔)をしている人には直ぐに注意を払います。自分が快適と感じる人に近づいたり、そうでない人から離れたりするのはこの感情による注意機能を利用しています。我々は感情を利用して自分に関連性のあるものとそうでないものを分類しているのです。

同様に、感情は記憶を容易にします。我々は些末なことよりも私たちに影響を与えた出来事(誕生日、死亡した命日、出会いの日など)を容易に記憶します。感情を動員する方法を知っている魅力的な教師の講義は、学生を眠らせてしまう退屈な教師の講義よりも容易に記憶できます。

感情は社会活動の重要な要素です。 感情がなければ人間関係はありえません!ある仲間が私たちに良くしてくれれば私たちはその仲間の方へ近づきます。 長期的な人間関係は、感情の共有と共感を通じて構築されます。

(4)どの人でも同じ感情を持つのか?

 1970年代に米国の心理学者P.エクマンは6つの基本感情のリストを確立しました。喜び、怒り、恐怖、悲しみ、嫌悪、驚きです。彼によるとこれらの感情は、人間の持つ生来の神経運動プログラムによって活性化されるため、すべての人に共通しているものであり、それゆえこれらの感情は誰にでも共通な表情や身体表現であると主張しました。実際、いろいろな文化の人々が西洋人の顔の写真からこの6つの基本的な感情を識別できることを示した研究者もいます。しかし、他の研究ではもっと微妙である事が示されています。ある文化に属する人々はその文化を持つグループの人たちの感情表現をそうでない人々のそれよりも容易に解読するようです。恐怖、怒り、悲しみの声には普遍性があるようですが、ポジティブな感情に関する表現は文化依存性が高いと言われています。すべての文化でグローバルに同じタイプの感情を見つけたとしても、それらは常に同じように解釈されるとは限りません。西洋文化では、ポジティブであろうとネガティブな感情であろうとそのオープンな表現を大切にしていますが、アジア文化では、他人を煩わせないように感情を隠す傾向があります。

感情に関する文化的再差異を表す例として、例えばドイツ人はShadenfreudeと言う言葉を使い「人の不幸は蜜の味」という意味の感情を表現します。この言葉に対応する適切な英語やフランス語の単語はありません。もちろん日本語にもありません。また、西洋からの隔離の程度が最も高いと言われるペルーの農耕民Matsigenkaには「懸念」の感情を表明するための言葉がありません。

今日では、感情の認知的側面に重点が置かれています。それぞれの感情的な表現は、状況のすべての側面を考慮に入れた複雑なプロセスの結果です。制御不可で、なじみもなく、突然に起こり、予測不可能な事象は、そうでない場合よりもはるかに強い恐怖反応を引き起こします。同じ事象でもその個人の経歴やパーソナリティにより異なった感情表現を引き起こします。蜘蛛は恐怖と楽しさの両方の感情を引き起こす可能性があり、人気テレビ番組は人により興奮を引き起こす場合もありますし、激しいストレスの感覚を誘発する可能性もあります。

(5)何の感情も感じないことは可能か?

感情反応は自動的に起こるものです。どんな人にも起こります。従って、人は感情を感じざるを得ないのですが「失感情症(alexithymiaアレキシサイミア)」と言う感情の認知や表現がうまく出来ない障がいがあり、 これは比較的広まっていると言われています。恐怖で震えているのか怒りで震えているか、幸せなので泣いているのか悲しいから泣いているのかが失感情症の人にはわかりません。体の感覚と感情とを関連させることが出来ないからです。これは脳機能の異常に関連している可能性や小児期の親とのコミュニケーションの欠如に関連している可能性があります。親は小児の感情形成において重要な役割を果たしています。 親は子供が感じることについてそれに対応する言葉を教え、子供が感情を特定の体の感覚と関連付けることを可能にしています。

 

以上、感情とはどういうものかを解説してみました。読者の皆さんの理解の一助になれば幸いです。

以上

 


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