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音声活用ブログ

記者会見を音声から読む

2022.05.23

テクノロジー

32 SMBC日興証券の記者会見を音声から読む

先日3月24日にSMBC日興証券が相場操縦の疑いで法人として同社と同社の副社長を含む幹部ら5人が東京地検特捜部に起訴されたことを受け、近藤社長による記者会見がありました。この会見時の近藤社長の声から感情を分析してみましたのでその概要を報告します。

記者会見の音声は次のYouTubeから取得しました。https://www.youtube.com/watch?v=1n70ePKsgPg

注:尚、この分析は社長発言の真偽を推定する為に行われたものでは無く、当社が販売する感情検出システムが妥当な結果を出力するか否かを検証する為に行われたものです。出力結果に関する見解は本ブログ筆者個人の文責であり、当社を代表した見解ではありません。

約1時間半に及ぶ会見では、まず近藤社長から経緯説明があり、その後記者からの質問に答える形で進められました。記者からの質問の回答では頻繁に「この件に関しては捜査中なのでお答えをひかえさせて頂く」との言い回しがあり、核心に触れなかった印象を持ちました。また、質問に対して答えを言い紛らした回答も多くありました。しかし、当社の音声感情解析技術では話の内容には一切関係なく、話者がどのような感情で話しているかを出力するものなので、「どのような場面でどのような感情が特徴的に出力されたかを調べ、その結果、話の内容を無視するが故にわかる新しい発見があるかどうかを調べてみました。

この結果、近藤社長は「親会社のSMBCファイナンシャルグループの意向を最も気にしている」との仮説を筆者は導き出しました。何故そのような仮説を導いたのかを説明します。まずは解析手法と会見の全般的な感情挙動について説明し、その後上記の仮説に至った理由を述べたいと思います。

記者会見音声感情解析手法

     1.会見の話者のクリーニング

会見の録音ビデオには近藤社長の声だけでなく、同席したコンプラ担当役員、司会者や記者の声が収録されています。近藤社長のみの感情の取得にフォーカスする為、本人の声だけを音声編集ソフトで抽出しました。

     2.InToneにクリーニングした音声を入力し、感情データを出力

当社の音声感情解析ソフトESAS InToneに、クリーニングした記者会見回答の音声を入力しその出力として、熱意、喜び、集中、ストレス、KEY POINT、躊躇、不安、怒り、悲しみ、が可視化されます。さらに、InToneでは、メッセージの形で話者の最も特徴的な感情状態を出力し、さらに詳細な時系列的感情データを2秒程度毎にCSV形式で出力できます。筆者が注目したのは後述する特徴的な感情メッセージです。

記者会見全般の感情状態

まず、この記者会見の全体でどのような感情状態にあったのか下のグラフを見て下さい。このグラフの横軸は時間の経過を示しており上のグラフは社長が経緯説明をしている時間帯、下のグラフは記者との質疑応答の時間帯です。縦軸はESAS InToneで検出した社長の発言の「自信度」を示す指標です。約2秒毎に話者の自信の度合いを数値で示しています。上のグラフに比べて下のグラフが詰まって見えるのは解析時間の長さによります。

自信の指標は数値が高くなるほど、自信を持って話していることを示します。一般的には0~30の値を示し、15が中間値です。このグラフを見て明らかにわかることは、自信度が15を超える割合が質疑応答時の方が、経緯説明時よりもはるかに低いと言う事です。これは記者からの質問に対する回答に自信を持てておらず苦慮している様子が窺えます

次にいくつかの質問場面での回答者の感情状態を示す指標を、ESAS InToneで表示させます。下の写真は、「厳正なる人事処分に自身は入っているのか?」と記者から質問された際の回答時のものです。右側の赤枠の中がInToneのUIです。

この表示ではEngagedが緑色に点灯し、StressedとSadが黄色に点灯しています。これは話者が質問内容にかなり集中し、同時にストレスと悲しみを相当程度感じていることを示しています。

次に記者からの質問に対するストレスの度合いと興奮の度合いをグラフで示します。横軸は質問項目の番号で、質問項目は下記に示します。

この図と表から次のことが読み取れます。

  1. 自身を含む厳正なる人事処分に関する質問で高ストレス及び興奮の度合いが他の項目に比して非常に高い。(項目3)
  2. 起訴された副社長に関する質問で高ストレスと興奮が相当程度出ている(項目16)
  3. 取引違法性に関する質問で興奮が高く出ている(項目10)
  4. 起訴された部署に関する質問で高ストレスが相当程度出ている(項目7)
  5. 持株会社の責任に関する質問で高ストレスが相当程度出ている(項目9)
  6. 組織脆弱性に関する質問で高ストレスがある程度出ている(項目15)
  7. その他の項目では高ストレスも興奮も出ていない

これらの読み取った事実をどのように解釈するかが大切です。まず特徴的なa.に関して、自分自身の処分に関して、辞任する以外に社長といえども自分で決められないのが組織の習いです。そこにストレスや興奮の高い感情指標が出ていると言うことは、辞任する意向は無いが親会社からの処分を気にしていることが窺われます。その証左として質問9に対する回答のように持株会社に関する項目で高ストレスが出ており、細心の注意を払って回答していることが窺われます。

質問3、10、16に対する回答では興奮の感情指標が出ていますが、記者に「その質問されても正直に答える事は出来ない」との気持ちが興奮感情を生んでいると想像されます。またこれは自身の人事を決める親会社からの悪評価は受けたくないと言う気持ちも含まれるのかもしれません。

上記の考察から、社長は「親会社のSMBCファイナンシャルグループの意向を最も気にしている」との仮説を立てました。もちろん真実は本人のみぞ知るものでこの仮説は筆者の憶測にすぎません。しかし、感情解析結果から推定するとこの仮説を否定する事も難しいのではないかと思われます。

以上

 

 


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