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047パーソナルキャラクターと意志決定(2) (プロスペクト理論について)|音声活用ブログ
2023.02.24
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047パーソナルキャラクターと意志決定(2) (プロスペクト理論について)
前回のブログ(ブログ46)で人間の意志決定はその人が感じる「効用」の期待値により決められるという期待効用理論を紹介しました。その人のリスクに対する態度(リスクを好む傾向の人、リスクを避けたいと思う傾向の人)により効用関数の形が異なり、それにより意思決定の結果が異なることを紹介しました。今回のブログでは期待効用理論では説明できない矛盾した現象があることを紹介し、その矛盾を解消する理論であるプロスペクト理論を紹介します。これは現在の行動経済学の中心理論です。プロスペクト理論を理解すれば、期待効用理論よりもさらに人間の感情傾向を理解できるようになり、効果的なマーケティング活動や営業活動が行え、さらに経営上の意志決定をするときの参考になるでしょう。
アレのパラドックス
今回はサンクトペテルブルクのパラドックスに変わってアレのパラドックスを紹介します。これはフランスの経済学者であったモーリス・アレ(1911-2010)が1952年にパリで開催された経済学の学会で紹介したものです。
1) 問題
あなたは宝くじにあたり、次の表に記載されている2つの選択肢のどちらかを選ぶ権利を与えられたとします。実験1と2の場合について回答してみて下さい。
実験1:
この場合には選択1Aと選択1Bついてあなたはどちらを選ぶかを回答して下さい。
選択1A:あなたは確率100%で1億円もらえます。
選択1B:あなたは確率89%で1億円もらえ、確率1%で何ももらえず、確率10%で5億円もらえます。
あなたはどちらを選ぶでしょうか?
実験2:
この場合には選択2Aと選択2Bついてあなたはどちらを選ぶかを回答して下さい。
選択2A:あなたは確率11%で1億円もらえます。
選択2B:あなたは確率10%で5億円もらえます。
あなたはどちらを選ぶでしょうか?
2) 多くの人の解答
実際にアレは学会で著名な経済学者達にこの実験を行いました。するとほとんどの人が、実験1では選択1Aを、実験2では選択2Bを選びました。また筆者の周囲の人にこの実験をしたところやはり全ての人が1Aと2Bを選びました。
3) パラドックス
この選択のどこがパラドックスなのでしょうか?実は1Aと2Bという選択は期待効用理論に矛盾するのです。前回のブログで期待効用理論は効用関数の期待値が大きな選択肢を選択するという事でした。但しその人のパーソナルキャラクターにより効用関数 が異なり、リスクを余り好まない一般の人の効用関数は上に凸の形をしており、リスク好きの人のそれは下に凸の形をしていることを説明しました。そこでこの2つの効用関数を仮定して期待効用を計算すると上の表のようになります。これから期待効用理論に基づく選択を推測すると、効用関数の形に関わらず、すなわち実験1では、意志決定する人がリスク回避傾向にあるかリスク選好傾向にあるかに関わらず、1Bの選択をするはずなのです。ところが、多くの人は1Aの選択をします。実験2では意思決定者のリスク選好傾向に関わらず、期待効用は選択2Bの方が2Aよりも大きく、2Bの選択をするのは期待効用理論の推測通りです。実際多くの人が2Bを選択しています。
まとめますと、実際の意思決定は実験1では期待効用理論が予測する結果と異なっており、実験2では予測通りです。同じ人がある場合は期待効用理論とは異なる決定をし、別の場合には期待効用理論に従う決定をします。意思決定の論理に一貫性がありません。この一貫性の無さがアレのパラドックスと言われます。
4) パラドックスの原因
このパラドックスを解明するには次の3つのことに答えなければなりません。
① 実験1で、何故期待効用理論と実際が異なったのでしょうか?
② 実験2では何故期待効用理論と実際が合致したのでしょうか?
③ 同じ人が何故場合により期待効用理論に従ったりしなかったりする意志決定をしたのでしょうか?
実験1を検討してみましょう。期待効用の値は意志決定者のリスク選好の程度に関わらず、選択1Bが1.1億円、選択1Aが1.0億円で選択1Bの方が選択1Aよりも大きいのに実際は選択1Aを選ぶ人が圧倒的に多いのは何故でしょうか?これは選択1Bでは全く賞金がもらえない確率が1%あるからです。賞金が全くもらえないかも知れないという恐れが期待効用理論に反してでも1Aを選択する理由です。期待効用理論はこの「失うかも知れない」という恐れを考慮に入れて修正する必要がありそうです。
実験2を検討してみましょう。期待効用の値は意志決定者がリスクを好まない場合は選択2Aで0.11億円、選択2Bで0.5億円ですから期待効用理論に従えば選択2Bを選ぶのは当然です。またリスクを好む人の場合は2Aで0.11億円、2Bで2.5億円ですからこの人も選択2Bを選ぶのも当然です。しかし、これは性急な導き方です。2Aの場合は89%の確率で、2Bの場合は90%の確率で何ももらえないということを考慮する必要があります。2Aの場合89%の確率で「1億円もらえなくて悔しい」という思いをします。2Bの場合は90%の確率で「5億円もらえなくて悔しい」という思いをします。実験2が示していることはこの悔しさを考慮に入れてもなお期待効用の大きい方を選ぶということで、1億円を獲得できなかった悔しさと5億円を獲得できなかった悔しさの程度はそれほど大きくは無いと言うことを意味します。
同じ人が実験1で期待効用理論に反する判断をし、実験2でそれに沿った判断をしたのは期待効用理論では賞金が獲得できなかった悔しさを考慮にいれていないからです。そこで期待効用理論を修正した新しい理論の登場が必要となりました。これに応えたのが次節で解説するプロスペクト理論です。
5) プロスペクト理論
賞金が全くもらえないかも知れないという恐れを考慮に入れ現実の人間が実際にどのような選択をするかを予測する理論としてプロスペクト理論が行動経済学の創始者と言われるカーネマンとトヴェルスキーにより提示されました。彼らは価値関数 という考え方を導入しました。これはx が正の値(すなわち、賞金がもらえる場合)には効用関数 と変わらないのですが、x が負の値(すなわち、もらえるはずの賞金がもらえない場合)には効用関数よりもずっと急峻に小さくなる関数です。下図にその例を示します。これは賞金額が大きくても小さくても効用はあまり変わらないと感じるが、もらえるはずだった賞金額がもらいないとなると、その額が増えれば増えるほどその無念さの程度が急速に大きくなると言う事です。つまり、人間は「富が減れば減るほど強く痛みを強く感じる」ことを示しています。これを心理学では「損失回避性」と言います。しかしこの急峻さは xが負の値の絶対値がある程度大きくなればそれほど急峻では無くなると言う性質を持っています。これは1億円を獲得できなかった悔しさと5億円を獲得できなかった悔しさの程度の比は、1万円を獲得できなかった悔しさの程度と5万円を獲得できなかった悔しさの程度の比に比べるとそれほど大きくは無いと言う実験結果を反映しています。これは心理学でいうところのウエーバー・フェヒナーの法則に従っています。これは人間の感覚(悔しさも感覚の一形態)が「変化した」と感じるのは変数の大きさに比例するというもので、例えば体重70キロの私が100グラム太っても全く気が付きませんが、体重4000グラムの赤ちゃんが100グラム体重増加すれば家族の大ニュースになるでしょう。
数学的な説明は省きますが、効用関数に代わって価値関数を使えば人間の判断を推 測することができます。
価値関数の形状はパーソナルキャラクターにより人ごとに異なります。お金を失ったり、取れるはずの賞金が取れなかった場合に強く悔しさを感じる人はそうでもない人と比べると が負の領域でより急峻なカーブです。
感情解析で価値関数の形状を予測し、そこから意志決定傾向を推測することが出来るようにすることが次の課題です。
最後に
弊社は、弊社の提供する感情解析ソリューションと、前回のブログで紹介した期待効用理論や今回のブログで紹介予定のプロスペクト理論を活用して、その人の意志決定を推測するソリューションを開発したいと考えています。もしご興味のある方は弊社にご一報ください。
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