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感情は人間生活の中でどのような役割を果たしているのだろうか

2023.06.05

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53 感情の5つの役割

前回のブログでは感情解析がビジネスのどのような場面で使われるのかザーッと述べました。この詳細に入る前に、そもそも感情は人間生活の中でどのような役割を果たしているのだろうかと考えていましたら、30年以上にわたって発行されているフランスの雑誌「人文科学」2022年11月号に感情についての特集が組まれていまして、その中で5つの役割についての記述がありました。参考になると思いますのでここで紹介したいと思います。(但し、筆者の考えも織り込んであります。)

 

感情はどんな時に出るのか?

普通の生活をしているときにいつも感情が高ぶっていては生活が成り立ちません。ではどんなときに感情の高ぶりを感じるのでしょうか?何か自分の身の回りに普段では起こらない特殊な状況が発生した時に感情が高ぶります。例えば試験に合格したという状況では喜びの感情が引き起こされますし、親しい人が亡くなるという特殊な状況下では悲しみの感情が引き起こされます。敵が自分たちを攻めに来ているというニュースを聞くと怯えの感情や怒りの感情が引き起こされます。自分にとって初めて経験するような状況や、自分の価値観に著しく反するかあるいは合致した状況では感情反応が顕著に出るでしょう。

 

 

感情が高ぶると何が起こるのか?

普段の精神状態とは全く異なる主観的な精神状態に陥り、身体の外形的変化(顔色や表情が変わる、姿勢や行動が変わる、など)、内蔵の変化(血圧や心拍数、体温変化、など)、身体感覚の変化(胃の痛みや喉の渇き、など)、音声の変化(音声のトーンや抑揚、速さなど)が起こります。これらの変化のおかげで、自分自身の感情が高ぶっていることを認識するとともに外部に対して自分の感情を伝えることができるようになります。

 

感情の役割

感情が高ぶると、自身にどのような変化が起こるのかについてはいろいろな資料に書いてあるのですが、その役割に関しては意外と資料がありませんでした。どこかにこれを説明した資料は無いかな?と探していたところ30年以上にわたって発行されているフランスの雑誌「人文科学(Sciences Humaines) 」という雑誌に行きつきました。そこでは感情には次の5つの機能があると説明されています。

 

  • 強力なコミュニケーション機能
  • 注意を向けさせる機能
  • 記憶の定着機能
  • 意志決定の迅速化機能
  • 人間の生存確率を高める機能

 

これらについて説明しましょう。

 

  • 強力なコミュニケーション機能

人間同士のコミュニケーションは社会的相互作用の基本です。人間は言語を持っているので、相手に自分の意志を伝え、また相手の意志を理解することは正確にできます。しかし、相手がどのような気持ちでいるのかは言語では伝わりません。それは人間の感情に伴う顔の表情、声の調子、姿勢で伝えています。従って人間は他者の表情の変化、声の調子の変化、姿勢の変化を敏感に察することができます。ある種の病態(摂食障害や自閉症、など)の人々は他者の目の領域への注意力が低く、社会生活に支障をきたします。これは感情機能の機能不全により引き起こされるようです。

姿勢でも感情を伝えることができます。頭を後ろに傾け、姿勢を正し、手を腰に当て、わずかにほほ笑むとその人がプライドの感情を持っていることを認識することができます。

喜びや安堵、焦りなどの感情は声の韻律(文字では記録できない声の抑揚や音楽性)により認識することができます。ある研究によると、現代西洋文明とは異なる文化圏であるナンビアのヒンバ族は声による感情認識が西洋人と同じようであるとのことです。すなわち、声による感情表現は文化によらず人類の普遍的な特質であることを示唆しています。

 

  • 注意を向けさせる機能

銀行員が強盗に銃やナイフなどの武器を突きつけられて脅かされたときには、銀行員は恐怖の感情を抱きます。このような場合、銀行員は武器に関する特徴のみを認識し、加害者の顔などの周辺情報は無視することが、米国の心理学者エリザベス・ロフタスが行った実験により示され、「武器集中効果Weapon focus effect」と言われています。これは感情を経験するような非日常的な事象に対して最も関連性の高いものに認知資源を集中させる役割を感情が担っていることを示してます。強盗のすべての(複数の)特徴に注意を向けることは人間の能力を超えていますので、複数の特徴のうち優先順位の高い特徴に注意を集中するように人間はできているのです。優先順位をつける基準として感情が用いられます。もっとも強い感情を抱かせる特徴(この場合には自分の命を奪うかもしれなし「武器」という特徴)に認知資源を集中させて自らを守る確率を高めていると思われます。

 

  • 記憶の定着機能

我々は過去の出来事を記憶します。これは現在及び将来の同様の出来事に対して我々が適切に対応できるようする為です。しかし、人間の記憶力には限界があり過去の出来事を全て記憶することは不可能です。どの出来事を記憶し、どれを記憶しないか、どの出来事の記憶を思い出し易くするべきかを何らかの基準で優先順位を付ける必要があります。この優先順位を決めるのが感情です。我々の脳はその感情を抱かせた出来事を記憶すべき程度を、感情を強く感じる順に優先順位をつけます。これにより記憶能力の省力化と効率化を図っているのです。

 

  • 意志決定の最適化機能

我々は毎日いくつかの選択肢の中から、結果がどうなるかわからないままどれかを選択するかという意志決定を迫られています。人は意思決定をしなければならない時には、過去の同じような状況で想起された感情反応が自動的に起こり、最も好ましい選択へと導くことができます。これは、ポルトガル系アメリカ人の神経科学者アントニオ・ダマシオが提唱した「ソマティック・マーカー仮説」と言われています。

 

  • 人間の生存確率を高める機能

嫌悪の感情が出ると、反動運動をしていやいやをし、口をとがらせるとか鼻にしわをつくるとかの表情になります。これは有害な食物の嘔吐を促し、気道を塞ぎ、揮発性毒物の吸入を減らすことになります。それにより生存確率を高めることになります。恐怖を感じると大声を出して仲間に知らせ助けを求めることによりやはり生存確率が高まります。これらは感情を感じると考える間もなく直ぐに行動に結びつき迅速に反応します。実際、恐ろしい状況を察知すると我々の脳内ではその感情は正確な内容ではあるが遅い経路と、荒っぽい内容ではあるが迅速な経路の2つの経路で伝達されることがわかっています。このようにして感情は我々の生存確率を高めるように作用しています。

 

 

我々の内面や社会的関係を維持していくためには上記の5つの機能は必須です。すなわち我々の生活や人生は感情によって支えられていると言えるでしょう。

 

 

以上

 

 


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