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感情は意志に重要な役割を果たす
2023.01.22
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45 感情は意志決定に重要な役割を果たす(「囚人のジレンマ」と感情)
15年間に3件のノーベル経済学賞を受賞している行動経済学や意思決定理論によると、感情は意志決定に重要な役割を果たしていていると言われています。以前のブログで書きましたが21世紀に入ってから意思決定理論に関して感情を扱った論文の数が非常に増えています。このブログでは感情が意思決定にどのように「良い」あるいは「悪い」影響を与えるかを解説します。これはエヤル・ヴィンター著「愛と怒りの行動経済学」という本に書かれている記述を参考にさせてもらいました。
囚人のジレンマ
「囚人のジレンマ」と言うゲーム理論のモデルをご存じでしょうか。2人の囚人が別々の部屋で尋問され次のような条件を与えられます。2人の囚人は互いに隔離されており相談はできません。
1.自分が自白し、相手が黙秘した場合は自分は無罪放免、相手は懲役5年
2.相手が自白し、自分が黙秘した場合は自分は懲役5年、相手は無罪放免
3.双方とも自白した場合は自分も相手も懲役4年
4.双方とも黙秘した場合は自分も相手も懲役1年
自分の意思決定の結果により引き起こされる帰結が、自分の決定だけでなく相手の決定に依存します。しかし相手とは事前に相談できません。この場合にどのように自分は意思決定すべきなのだろうかと言う問題です。
この条件を囚人が自分の立場で考えてみますと以下のようになります。
-
- 自分が自白したら自分は
無罪放免(相手黙秘)か懲役4年(相手自白) - 自分が黙秘したら自分は
懲役1年(相手黙秘)か懲役5年(相手自白)
- 自分が自白したら自分は
これを表にまとめると下のようになります。
|
|
相手 |
|
|
|
自白 |
黙秘 |
自分 |
自白 |
自分 懲役4年 |
自分 無罪放免(0年) |
黙秘 |
自分 懲役5年 |
自分 懲役1年 |
囚人の一人として考えてみましょう。牢屋に入れられている囚人は一日も早く無罪放免となってここから出たいと思うでしょう。無罪放免を勝ち取るのは自白しかありません。従って自白を選ぶ可能性が高いと思われます。ところが、相手も自白すれば、自分も相手も懲役4年になってしまうというリスクがあります。
次に、自分のことだけを考えるのでは無く、自分と相手の2人を一緒に考えてみましょう。自分だけの「個人」ではなく、2人からなる「社会」を考えます。自分と相手の合計刑期は次のようになります。
-
- (自分:自白、相手:自白) 合計刑期 8年
- (自分:自白、相手:黙秘) 合計刑期 5年
- (自分:黙秘、相手:自白) 合計刑期 5年
- (自分:黙秘、相手:黙秘) 合計刑期 2年
これから明らかに、自分と相手を一緒に考えた場合には自分も相手も黙秘を選択した場合に合計刑期が最短になります。囚人は
-
- 「自分だけの利益を考え、白状を選択して無罪放免となる可能性に賭けたい。」
- 「2人の社会を考え黙秘を選択して合計刑期を最短にしたい。」
という2つの選択で悩むことになります。個人を中心に考える選択肢と社会を考える選択肢が異なります。囚人はこの2つの選択肢のどちらを選ぶかを意思決定しなければなりませんが、葛藤します。この葛藤のゆえにこれは「囚人のジレンマ」と名付けられ、この種の事象はビジネスや外交での交渉に頻繁に現れます。
ゲーム理論では自分だけの利益を追求した場合には結果的には社会的に悪い結果を招くことが数学的に証明されています。しかし、日常の意思決定はいちいち数学を使って意思決定などしません、多くの場合には感情に基づき意思決定するものです。すなわち、感情は意思決定に重大な影響を与えます。したがって自分と相手の感情を知ることは交渉を有利に導きますし、社会的にも貢献することになります。下記に意思決定の2つのやり方を解説します。
自分だけの利益を追求し、感情を交えず数字だけで意思決定する場合
囚人(自分)は冷静な人間です。白状した場合と黙秘した場合の、刑期の期待値の短い方を意思決定として採用することにしました。相手のことは何も考えませんが、ただ相手がどのような意思決定をするかは事前には分らないので、相手が白状する確率を0.5、黙秘する確率を0.5としてみます。そうすると囚人(自分)の刑期の期待値は
-
- 自分が自白の場合 刑期期待値=4年×5+0年×0.5=2年
- 自分が黙秘の場合 刑期期待値=5年×5+1年×0.5=3年
となりますから、刑期期待値が短い「自白」を意思決定します。
感情に基づき意思決定をする場合
次に、人間の感情を考慮したときにはどのような意思決定をするかを考察してみましょう。囚人(自分)は相手に対して恋愛感情を持っているものとしてみましょう。このとき、自分は相手の利益がなるべく高くなるようにしようとするでしょう。すなわち相手が無罪放免されることを願います。そうなるためには自分は「黙秘」を意思決定するしかありません。期待値の計算などは小賢しいことだと思い、しないでしょう。すなわち、相手の利益を最大限に考えると自分のことだけを考えて意思決定した結論とは異なります。
次に囚人(自分)は相手に対して憎しみの感情を持っているものとしましょう。このとき、自分は相手になるべく不利益を被らせるようにするでしょう。従って、相手に懲役5年を与えてやりたい。従って自分は「白状」を意思決定するでしょう。すなわち、相手の不利益を最大限にしたいと考えると、相手の利益を最大限に考えた場合とは異なった結論になります。
ナッシュ均衡とパレート最適
上述した2人の囚人、自分と相手、が同じに考え、同じ感情状態にあるとしてみましょう。この場合には2人とも同じ意思決定をするはずです。数字だけで意思決定した場合は(自分:自白;懲役4年 相手:自白;懲役4年)の組み合わせになります。感情を考慮した場合には相手の利益を最大限に考えると(自分:黙秘;懲役1年 相手:黙秘;懲役1年)に、相手の不利益を最大限に考えると(自分:自白;懲役4年 相手:自白;懲役4年)になります。経済学の用語では、前者をナッシュ均衡、後者をパレート最適と呼びます。
社会的にはパレート均衡が望ましいわけですが、この例が示していることは、自分の利益のみや相手の不利益を追求した場合にはパレート最適にならず、ナッシュ均衡になってしまいます。社会的善と思われるパレート最適を得るためには相手の利益を最大限に考える必要があります。
感情の力
相手の利益を最大限に考えて自分の行動の結論を導き出すためには意思決定者という人間の相手を思いやる「感情」が必要です。これがなければパレート最適を導くことはできません。倫理の黄金律で「他人にしてもらいたいことをせよ」というのがありますが、まさにこれを行うとパレート最適を得ることができます。感情抜きに自分だけを考えた行動は決して社会的善を得られないことが示されたと思います。
今後、感情研究は社会的善を実現するためには必須であると思われます。当社は、感情解析を通じて社会的善の実現に少しでも貢献したいと考えております。
以上
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